いつだったか友人とテレビを見ようとスイッチを入れたら
いきなりジャック・ニコルソンの顔がドアップで画面に映し出された。
なにかの映画だったと思うが
そのドアップを見た瞬間
友人が《なんかこいつって軍人みたいだな》とつぶやいた。
ジャック・ニコルソンは別に軍人の扮装をしていたわけでもなく(バスローブ姿だったか?)
それとわかるセリフを言っていたわけでもない。
つまりなんの判断材料もなかったにもかかわらず
ただパッと見た瞬間
そう思ってしまったのだという。
友人に言わせると《そう思わされた》という感覚なのだそうだ。
そしてそれは大当たりで
ジャック・ニコルソンはまぎれもなく軍人の役だった。
そういえば私も以前ある生命保険会社(?)のCMで
(いい意味で)ものすごく獣くさくてセクシーなパフォーマンスをする男性を見て
突然《あ!(真夏の夜の夢の)パック!》と思ったことがある。
のちにその男性がリンゼイ・ケンプというアーティストで
真夏の夜の夢の日本公演で来日するカンパニーの代表であり
彼の役はまさにパックである、ということを知った。
受け手に対してなんの説明もなく
また受け手側になんの知識もない状態で
会った瞬間なんとなくそれらしらを感じさせてしまう存在感、というのは驚異だ。
日本舞踊ではよく〈匂い〉という表現が使われる。
《どこがどうっていうんじゃないんだけどなんだか匂いがちがうんだよなー》とか
《江戸前の匂いがしないんだよ》といった類のダメだしは
もちろん私自身もされるし
舞踊雑誌の評などでもよく目にする言葉だ。
曖昧模糊として難しいが
一番大切な
〈なんとなくそれらしいいい感じ〉。
未熟者の舞踊家としては
ジャック・ニコルソンの爪の垢でも煎じなきゃ・・。