ヤマトナデシコ。

傘を持たずに出掛けた先日のこと
帰り道チラチラと雪が降り始めた。
バス停から自宅まで着物で早足で急いでいたら
うしろから「あの!すみません!」と声をかけられた。
振り返るとデニムにセーターの、学生とおぼしき女性が傘をさして立っていて
「お宅、どちらですか?私のうちここ(と言って目の前の家を指さし)なのでよかったら傘どうぞ。着物濡れちゃいますよね~」と言いながら、傘をさしかけてくれた。
私の家もそこから数メートル先くらいの近さだったので
丁寧にお礼を申し上げて辞退した。

確か以前も同じようなことがあった。
このブログにも書いた記憶があるが
やはり雨が降り始めた夜の帰り道
自転車に乗った男性が一旦通りすぎたあと、わざわざ引き返してきて傘をさしかけてくれた。
その時も私は着物を着ていて
男性は「着物着ていらっしゃるから大丈夫かな~と思って」と言ってくださった。

以前林真理子さんが自身のエッセイで、「女性が着物を着ると、世間は何かと丁寧に接してくれる」と言っておられたが、なるほどな、と思う。
確かに着物は洗濯機でガンガン洗えるものではなく
手入れや保管にも手間隙がかかる。
ものによってはそれなりの値段もする。
が、着物を着た女性に対して世間が丁寧に接してくれる、その理由はそれだけではない気がする。
なんとなくどこかに
着物を着た女性→『ヤマトナデシコ』→おしとやか→大切に扱わなければならない、という発想があるように思うのだ。
そして私は、一見およそ着物とは無縁とも思える人までもが(あるいは無縁だからこそかもしれないが)そういう発想をしてくれることが嬉しくて仕方ない。
日本舞踊における女形の踊りは、かなりザックリ言えば
好きな男性の前で『おぉ、恥ずかしい』とポッと頬を染めてしまうような、いわゆるかよわき女性・守ってあげたくなるようなしとやかな女性の感性かコアになっている、と思う。
なので
私の実態がヤマトナデシコ的であるかどうかは非常に疑問だから置いとくとして
日本舞踊にたずさわっている人間の一人として
着物イコール丁寧に・大切に扱ってやろう、という、雨の日の男性や先日の雪の日の若い女性の感性には
親切にしていただいた嬉しさ以上に感激してしまうのだ。

夜になって急に冷え込んだ寒い帰り道だったが
心はポッと暖かくなった雪の日だった。

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