雪の日の階段で。

東京が再び大雪。
雪で凍った駅の階段を用心しつつ降りながら
病で早世した友人のことを思い出す。

友人、といっても10歳ほど先輩で
人生の紆余曲折を乗り越え、某会社の社長にまで上りつめた、日本舞踊とは縁もゆかりもないバリバリのビジネスマン。
日々を楽しむことが上手で
向上心と情愛にあふれた、とても愉快な人だった。

彼の愛読書は徒然草で、ある時その中の「高名の木登り」について話してくれたことがあった。

ある木登りの名人が弟子に高い木に登らせて枝を切らせていた。
とても危険だと思える高さの時は何も言わなかったのだが
屋根の高さくらいまで降りてきたところで「落ちるなよ。気をつけて降りろよ。」と声をかけた。
「これくらいの高さになればそれほど危険はない。なぜわざわざこのタイミングで声をかけたのか?」と問われた名人は
「目がくらむような高さにいる時は登っている本人自身が怖いと思っている。そのときは何も言いません。けがは、もう安全だ、と思ったところになってするものです。」と答えた。

彼はこの教訓を社長として一個人として
いつも心に留めるようにしていると言っていた(そのわりに私の知っている一個人の部分に限って言えばどこか抜けているところもあって、そこがまたご愛嬌でもあったのだが)。

また「横断歩道を渡る時、青だから安心、は間違い。交通事故は、信号なんかかんけーねーというクレイジーなノリの人や、信号を遵守する能力のない人のところで起きる。青の時こそ気をつけるんだよー。」
とも言っていた。

どれも、九州生まれでウインタースポーツをまったくやらず、雪に不慣れな私のためにあるような教訓だな、と思いながら
階段の最後の3段をソロリソロリと降りてみる。

「努力をするのは当たり前。天才っていうのは、努力の仕方を知ってる人のことなんだよー。」とも言っていた。
そもそもの能力のなさにくわえて、ピンボケかつ無駄な努力をグズグズしてしまうタイプの私には、いろんな意味で考えさせられる言葉だなぁ…などと思う。

 

雪が降り続くこんな日は
心の中で今も生き続けてくれている、大切な友人の存在を感じる。

 

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