あの子。

君がこんなふうに

世界一愛されている間

あの子は

自転車置場の隅にうずくまって

冷たくなりはじめた初冬の風をよけながら

長い夜を過ごしている。

気まぐれな親切をあてにして

疑う選択肢すらもたないで

そこそこ満たされたちっちゃなお腹を

時々思い出したように繕いなから

お日様の沈んだ長い長い夜を過ごしている。

そうやって生きていくことを楽しめるような

そんな育ち方などしてないのに

ある日突然そうやって生きていくしかなくなったあの子は

君と同じようにうんと人なつっこくて

君と同じくらいやわらかな身体をしている。

君がこうやって

フカフカのベッドで暖まりながら

可愛い寝息を紡いでいる間

少しだけ右足を引きずるあの子は

自転車置場の隅で

どんな夢を見ているのだろう。

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